なぜドレミファソラシドなのか — 音階はどこから来たのか
ピアノの白鍵を左から順に押していくと、ドレミファソラシド。では、なぜよりによってこの7つの音 なのでしょう? 誰かが会議を開いて「これを標準にしよう」と決めたのでしょうか。実はその逆です。 ドレミファソラシドは人間が発明した規則ではなく、音という自然現象が先に用意していた答えに ずっと近いのです。この記事では、その「なぜ」を一つずつ追っていきます。公式を暗記するのではなく、 なぜこうならざるを得なかったのかを理解するのが目標です。
なぜ高い「ド」も同じ「ド」と呼ぶのか
まず不思議な点をひとつ。低いドと高いドは明らかに高さが違うのに、私たちは両方を同じ「ド」と呼び、 実際に同じ音のように聞こえます。なぜでしょう。
答えは振動数にあります。音とは結局のところ空気の震えで、音が高いほど速く震えます。ここが肝心 なのですが、高いドは低いドのちょうど2倍の速さで震えます。比で書けば2:1です。ギターの弦の 真ん中をちょうど半分で押さえて弾くと、1オクターブ高い「同じ音」が鳴るのもこのため — 弦が半分に なると2倍の速さで震えるからです。私たちの耳はこの「2倍」の関係を、同じ音の繰り返しとして受け取り ます。だから音階はドから始まり、(2倍に速くなった)ドで一周を閉じます。この一周をオクターブと 呼びます。
下の動画で、1本の弦が半分・3分の1・4分の1に分かれて音がどう重なるのか、耳で確かめてみてください。
いちばん仲のいい二番目の相手 — 完全5度
オクターブ(2:1)の次に単純な比は何でしょう。3:2です。片方が3回震える間にもう片方が2回震える 関係ですね。この2音を一緒に鳴らすと、驚くほど安定した、充実した響きになります — ドとソの関係、 これを完全5度と呼びます。
なぜ単純な比が「気持ちよく」響くのでしょう。二つの震えが頻繁にピタッと合うと、耳が「この二つは チームだ」と感じて安心するからです。逆に比が複雑になるほど(たとえば45:32)、二つの揺れが合う瞬間は まれになり、ざらつき、ぶつかる感じが出てきます。
協和音と不協和音の根っこは、結局のところ振動数の比の単純さです。単純なほど甘く、複雑なほど緊張します。
この「距離の感覚」は、第2回で音程という名前でさらに深く掘り下げます。
自然が先に手渡してくれた和音 — ド・ミ・ソ
実は私たちが一つの音を鳴らすとき、耳にはその音だけが聞こえているのではありません。ギターの弦を 1本弾いても、その中には2倍(オクターブ)、3倍(オクターブ+完全5度)、5倍(その上の「ミ」に当たる 音)… というように、整数倍で幾重にも積み重なった音が一緒に鳴っています。この隠れた音たちを **倍音(ハーモニクス)**と呼びます。
面白いのは、この倍音を低い順にいくつか選んで集めると、ひとりでにド・ミ・ソ — つまり明るい メジャーの和音になることです。だからメジャーコードは、誰かが「きれいだからこう積もう」と設計した ものではなく、一つの音の中に自然がすでに隠しておいた和音なのです。音楽が物理から生まれる瞬間 ですね。
7つの音が集まる — だから白鍵
いよいよ音を集めてみましょう。主音(ド)を決め、そこからいちばんよく合う完全5度(ソ)を探し、 さらにそのソから完全5度を探し… こうして「いちばん仲のいい関係」をたどって音をつなげていくと、 不思議なことに1オクターブの中に7つの音がきれいに収まります。この7音こそドレミファソラシ、 ピアノの白鍵です。
だから「ドレミファソラシド」は、適当に7つ選んだ音ではありません。一つの主音を中心に、いちばん よく溶け合う音たちの家族なのです。そしてこの家族をド(英語名C)から始めれば、私たちがCメジャー スケールと呼ぶまさにそれになります。Cメジャーが白鍵だけで完成するのも、偶然ではなくこのためです。
なぜ「ド」は家のように感じるのか
最後の疑問です。ドレミファソラシドを弾いていくと、最後のドに着いたとき初めて「着いた、やっと 休める」という感じがします。なぜドが家なのでしょう。
秘密は「基準点」です。私たちはすべての音をドからどれだけ離れているかで感じています。ソは 「ドから完全5度」、ミは「ドから明るい3度」… というように、みんながドを基準にするので、ドはこの 小さな音楽世界の家であり、重力の中心になります。メロディが思いきり緊張したあと、結局そこへ 戻って休みたがる音 — それが主音で、どの音を家にするかが曲全体の性格を決めます。
というわけで、実際に聴いてみてください
ここまで読んだことを、いちばん有名なやり方で一度に確かめられます。映画『サウンド・オブ・ ミュージック』の「ドレミの歌」は、まさにこの7音に一つずつ名前をつけて上り下りする歌です。聴き ながら、メロディが最後のドに着くときの「家に帰った」感覚に集中してみてください。理論が急に体で 分かるはずです。
まとめると、ドレミファソラシドは人間の好みではなく、振動数の単純な比という自然法則が形づくった 音たちの家族です。次回は、この音たちの「距離」— つまり音程が、明るさ・暗さ・緊張といった感情を どう作り出すのかを続けてお話しします。音階の間隔パターン(長・短音階、ペンタトニック)が気になる 方は、スケール入門もあわせてどうぞ。