ジャズの歴史④ クール・ジャズとハード・バップ (1950s)
ビバップは速すぎて熱すぎました。1950年代、ジャズはその熱を二つの方向へ解き放ちます。一方は冷たく、 もう一方はより濃く。
クール・ジャズ — 落ち着いて優雅に
西海岸を中心に、ビバップの激しさを鎮めた柔らかく抑制されたサウンドが流行します。余白・音色・洗練された 編曲を重視しました。その出発点が、マイルス・デイヴィスが1949〜50年に録音した Birth of the Cool セッション。クラシック的な編曲と柔らかな管のハーモニーが特徴です。
ハード・バップ — ブルースへ帰る
逆に東海岸では、ビバップにブルース・ゴスペル・R&Bの粘りを再び吹き込んだハード・バップが登場。 よりグルーヴィで、より土の匂いがして、より楽しいジャズです。アート・ブレイキー、ホレス・シルヴァーらが この流れを牽引しました。
間に挟まったひとつの発明 — LP
1948年、コロムビアが33⅓回転のLPを発表します。片面3分の時代が終わり、20分以上を収められる ようになりました。
これは技術ニュースではなく、音楽の形を変えた出来事です。3分で終えねばならない時、ソロは1コーラスで おしまいでした。20分あればソロは3〜4コーラスに伸び、奏者はアイデアを「展開」できます。5分を超える トラックが当たり前になり、「アルバム」という単位が作品になるのもこの頃から。1950年代のジャズが 前の時代よりゆったり聞こえるとしたら、それは性格ではなく長さの差が大きいのです。
クールとハード・バップを耳で見分ける
三つ見れば、だいたい掴めます。
| クール・ジャズ | ハード・バップ | |
|---|---|---|
| 音色 | ビブラートを抑えた滑らかで乾いたトーン | 荒く太い、声に近いトーン |
| 編成 | チューバやフレンチホルンまで混ざる室内楽風の編曲 | トランペット+サックスの2管の簡素なコンボ |
| リズム | ドラムが後ろに下がり余白を作る | ドラムが前に出て押していく |
そして和声の面で決定的な違いがもう一つ。ハード・バップはブルースとゴスペルの文法を持ち込みます。 12小節ブルース形式、コール・アンド・レスポンス、教会和声特有のマイナー寄りの色。「Moanin'」の 最初の4小節がすぐ身体を揺らすのは、それが説教壇から来た文だからです。
この時代の巨匠たち
- マイルス・デイヴィス: クールの扉を開いた人物(以後すべての時代をまた変えていきます)。
- デイヴ・ブルーベック: 変拍子(5/4 など)の実験でジャズのリズムの地平を広げた。
- ソニー・ロリンズ: テナーサックスの巨人。即興で物語を編む力の頂点。
- アート・ブレイキー & クリフォード・ブラウン: ハード・バップのエネルギーと叙情の象徴。
必聴曲
Dave Brubeck – "Take Five" (1959)
4/4ではなく5/4拍子で作られた、史上最も売れたジャズ・シングル。一度聴くと忘れられません。
Miles Davis – "Boplicity" (Birth of the Cool, 1949)
クール・ジャズの始まり。柔らかく重なる管の編曲の優雅さを。
Art Blakey & the Jazz Messengers – "Moanin'" (1958)
ハード・バップの代表曲。ゴスペル的な「呼びと応え」の旋律がすぐ身体を揺らします。
Sonny Rollins – "St. Thomas" (1956)
カリブのカリプソ・リズムをまとった軽快な名曲。ロリンズの即興がいかに歌うかを。
Clifford Brown & Max Roach – "Joy Spring" (1954)
26歳で夭折した天才トランペッターの、温かく明るい傑作。
一方マイルス・デイヴィスはここで止まりませんでした。コード進行そのものを捨てる、より根本的な革命を準備します。